深見友紀子 最高裁・パートナー婚解消訴訟 オフィシャルサイト

本件に対する法律関係者の論考
2006年以降

中川淳「家族法研究ノート1 婚姻外関係の一方的解消と不法行為責任―最判平成16・11・18を中心に」に対する私のコメント

「昭和六〇年に知り合って婚姻したが、翌年に婚姻を解消し」(p.45 下段)

「昭和六一年に婚姻を解消して以来」(p.46 上段)

「慰謝料五百万円を請求した」(p.46 上段)

 以上の3点は、事実の誤認です。特に慰謝料の額については、東京地裁判決文参照。

「婚姻外の男女関係については、・・・次のように類型化できるであろう」(p.46 下段)

と書き、その一つ目に法律婚を挙げているのも間違いではないでしょうか。

 中川さんは、男女関係を法律婚、内縁関係(事実婚・準婚)、妾関係、単純同棲、契約同棲、同居を伴わない仮想結婚、別居結婚などに類型化し、別居結婚については、次のように解説しています。

 別居結婚とは、婚姻意思はあるが、共同生活を欠く関係であり、一時的なものと、婚姻期間中共同生活をしないものがある。一時的なものには、夫の転勤、入院などによる場合があり、とくに問題はないが、婚姻期間中全く同居しないという合意は、民法752条に反し無効と解されている。」(p.47 下段)

 文中に「婚姻期間中」が2回出てくるので、中川さんは別居結婚=「別居している法律婚」と捉えているはずなのですが、その一方で、この論考の冒頭(p.45 上段)において、本件の原告(私)と被告(裁判相手)の関係を、「婚姻の届出をしないで別居しながら子どもを二人もうけ、いわゆる別居結婚(「パートナーシップ関係」)を続けてきた男女)」と表現しており、この場合は、別居結婚=「別居している非法律婚」とみなしていると思われます。どうも一貫性が見られません。

 ところが、定義が定まらないこの別居結婚とは対照的に、“共同生活”の定義には一貫性が見られ、終始“共同生活”= “同居”と捉えていることがこの論考全体からはっきりと読み取ることができます。

 上記文中、 “婚姻期間中全く同居はしない” の“全く”とはどのような内容なのでしょうか。娘が生まれてから一ヵ月の間、相手は毎日私の家を訪ねていましたが、“訪問”は該当しないのですか。

 次に、中川さんは、内縁関係の認定がなされるかどうかの基準は“婚姻意思” “共同生活”との実態にあるとし、近年その基準が柔軟になる傾向が見られることに関して、法律婚の基礎を危うくすることにつながるために好ましくないと述べています(p.47 下段)。
 しかし、それは杞憂に過ぎないのではないでしょうか。日本人の多くは、自らの欲望を婚姻制度の中で実現しようとするので、たとえ認定基準が甘くなったからといって、法律婚を回避する人たちが急に増えるとは考えられないからです。むしろ、法律婚の基礎を“外部から”危うくさせる男女の数より、法律婚の基礎を“内部から” 危うくさせる法律婚夫婦、すなわち “婚姻意思”も “共同生活”もない法律婚継続者のほうが実数としては遥かに多く、かつその人たちは自らの意思で行動することもままならず、決して幸せではなさそうだという現実に目を向けていただきたいです。

 「この事例は、共同生活がないという意味では、判例のいう「特別の他人」とみるか、それとも、子二人をもうけ、子の利益のために婚姻の届出をしているところ(婚姻のためでなく)からみると、なお「弱い家族」の意識があったとみることもできよう。」(p.47 下段)

 「弱い家族」とは、絆が弱いという意味でしょうか。

 「かつて心素である婚姻意思と体素である共同生活とが一体であるという考え方もあったが、共同生活をしている男女関係がすべて婚姻意思を有しているとはかぎらない」(p.48 上段)

 であるならば、“共同生活をしていない男女関係がすべて婚姻意思を有していないとはかぎらない”のではないですか。

 「したがって、婚姻外の男女関係の保護の問題は、婚姻関係の枠組みではなく、共同生活したがって財産法的な側面から眺めていくことも必要となろう・・(中略)・・本件男女関係においては、とくに財産的な契約があるという事実関係が示されていない。」(p.48 上段)

 この文によって、共同生活を財産と密接に結びつけていることがここで初めて明らかにされます。

 私が裁判相手の親から受け取った約650万円は「住宅支度金」の一部だったのですから、本件には法律家の方々が想像する以上に「財産」が絡んでいるといえるのではないでしょうか。このお金を「出産請負金」と解釈するか、一般的な意味での「結納金」と解釈するかで、判例の認定事実に違いが生じませんか。

 男女関係について、次のように分類できるでしょう。(子どもの有無は除外)

同居 非同居
婚姻意思、共有財産共にあり 婚姻意思、共有財産共にあり
婚姻意思なし、共有財産あり 婚姻意思なし、共有財産あり
婚姻意思あり、共有財産なし 婚姻意思あり、共有財産なし
婚姻意思、共有財産共になし 婚姻意思、共有財産共になし

 私と裁判相手の場合は、非同居〜婚姻意思あり、共有財産なしでした。2003年1月〜2009年2月までの6年間、私の自宅で同居していたSとの場合は、同居〜婚姻意思あり、共有財産なしでした。

 Sと私との共有財産については、星野豊さんの論文への私のコメント(「共有財産」を築かない男女の同居は可能)の中で記述しているのでお読みください。「共同生活したがって財産法的な側面」という“切り方”は、したがって一般的に通用することが多い、というだけに過ぎないと思います。

(2009年9月10日)

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深見友紀子(ongakukyouiku.com)

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