本山敦「婚姻外男女関係の一方的解消の不法行為責任の成否」に対する私のコメント
本山敦さんの解説をオペラにたとえると、次のようになります。
- 本判決の意義〜第一幕
- 従来の判例との関係〜第二幕
- 従来の学説との関係〜第三幕
- 実務への影響〜終幕
第二幕で好適参考事例3例(オペラの筋書きに影響を与える脇役3名)を登場させて、どういう展開になるのかだろうかと観客をワクワクさせておきながら、第三幕以降、先達の慣例に気を遣い、結局陳腐な演出・構成になってしまい、そのまま"幕"となってしまったという印象です。
わざわざ提示したこの3例のどこに明確な勝敗の差になる事実関係の差があるでしょうか。せっかく例を出したのなら、本山さん自身の考えがあったはずだと思うのですが、何も書かれていません。この3例、そして今回の事例を含めた4例を的確に考察することこそ、法律学の研究者に課された使命であると思います。
「この出産に際してされた金銭の授受も「出産請負契約」「人身売買」との印象を与えかねない様態である。」
これはどういうイメージで書いているのでしょうか。「出産請負契約」「人身売買」といった言葉が法律家の口から発せされたことに驚愕しました。まるで"2ちゃんねるの住人"です。
参考図
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柏木恵子『子どもという価値 少子化次時代の女性の心理』(中公新書 p.39)
江戸時代後期、20代から30代の女性の死亡率が高率になっているのは、出産によって死亡した女性が多かったことを示しています。医学が発達した現代においても、出産で死亡する女性は10万人に7人で、交通事故の死者10万人に9人とほとんど変わらないのですよ。私の芸大時代の友人で、将来を嘱望されていた音楽学者&チェンバリストも双子の出産で亡くなりました。
コラムで書いた子どもの妊娠、出産、養育、金銭に関する事実(コラム6、コラム7、コラム8、コラム9)を読み、かつ、私が双子の出産で死にかかったこと、現代においても女性にとって出産は命の危険が伴うこと、妊娠・出産には明らかに費用が伴うことなどを総合的に判断して、それでも本山さんが「出産請負契約」「人身売買」と思うのであれば、これこそセクシャルハラスメントです。妻を"無料の家庭内売春婦"と称するのと同じレベルであると思います。
(2008年4月8日 若干加筆修正)