「岡森利幸氏のオブジェクション」 〜「準婚関係の認定」に対する私のコメント
岡森さんは、「この女性(私)はあまり同情されなかった」と書いています。こうした男女間の紛争では、当事者への同情といったものがどの程度判決に影響を与えるのかという点がまず気になりました。最高裁でさえ同情が勝敗を分けるファクターになるのかどうか・・・・。
"この二人は・・・" で始まる次の文章。二人に言及するのは冒頭のごくわずかで、途中から女=私側だけのことになり、私が同情されなかった理由が考察されています。
「この二人はわざわざ婚約を解消したり、子供が生まれたのを機に結婚したのに、なぜすぐに離婚届を出したりしたのか、理解に苦しむところがある。それが多くの人に理解されなかったと思われる。 法的な結婚に何か問題や不満があったのだろうか。男性側の姓に名前を変えるのがいやだったのだろうか。それとも大学教授の彼女には、独身でいることの何かメリットがあったのだろうか。結婚手続することで制約を受ける何かがあったようだ。おそらく、結婚に伴う義務(家事の分担など)を負わずに、自由でいたいというものだろう。家事に煩わされずに自分の仕事に専念したかったのだろう。相手に邪魔されないし、相手を束縛しない関係を求めた。あるいは世間の目を気にして、他人から「家庭を顧みない悪妻愚母」と言われたくなかったので、結婚という形式を避けたのかもしれない。」
特殊な男女関係は、女が主導権をもって決定されるものであり、男は女のイデオロギーに付き合わされ、我慢の連続であるといった先入観があるようですね。「世間の目を気にして、他人から「家庭を顧みない悪妻愚母」と言われたくなかったので、結婚という形式を避けたのかもしれない。」というのもまったく的外れです。結婚という形式を避けたなら、「家庭を顧みない悪妻愚母」といわれないかというと決してそうではありません。そんなに甘くないですよ。
男性側が養育を行うという取り決めをした当時、私は大学教授ではありません。自宅でのピアノレッスンのみを生活の糧にしていた大学院生のとき(長女出産時)と、"不安定職業"として知られている短期大学の非常勤講師のとき(双子出産時)です。大学教授だからこういう取り決めをしたと思われがちですが、10数年の歳月の流れ、それに伴う変化が考慮されていません。
一流企業のサラリーマンだった男が、フリーターに近い立場だった女に「出産・養育費用は僕が負担する代わりに、出産後の生活の面倒は一切みない」と言ったのだとすると、果たしてどういった印象になるでしょうか。女が家事に煩わされずに自分の仕事に専念したかっただけではなく、男が女に対して家事に煩わされずに自分の仕事に専念してほしかったのだとすれば、どうでしょう。16年間、相手が私に求め続けたものは何だったのでしょう。この事件は、法律家にとっては、法律婚と事実婚の線引きのための好事例に過ぎないかもしれませんが、決してそのレベルにとどまるものではないのです(当事者である私がそう言っているのですから、確かです)。
夫婦別姓、旧姓の通称使用、事実婚などの現状はあまりご存知ないのですね。程度の差こそあれ、法律婚に何か問題や不満を抱える男女は社会の中に多く存在すると思います。
20年前の私は、年齢は28〜29歳でしたが、やっと2度目の大学である東京芸大を卒業する時期にあり、積み上げたキャリアなど何一つありませんでした。私が法律婚をしなかったのは、自分の姓を変えたくなかったからですが、研究者としてのキャリアの断絶を危惧したためではありません。このことも、岡森さんをはじめ多くの人々が誤解している点です。フリーターに近い女が姓を変えたくなかったという事実が重要なのです。
既婚者のメリットとデメリット、独身者のメリットとデメリットは人それぞれでしょうが、男女の両方がある一定額以上の収入を持ち、相手側の資産を自分のものにしたいというような欲がなければ、婚姻届を出すメリットなど何一つ見当たらないというのが、現在の私の見解です。2人の間に子どもも存在しないのなら、なおさらです。
最後になりましたが、法律から逸脱しているか、していないかの境界をどこに定めるかにのみ腐心し、"関係の継続"と"関係の解消"を混同している法曹界の方々と比べると、「契約に準ずる合意があって、16年も関係を継続し、子供をもうけたのだ。」「子どもを作る意志をもち、二人も出産しているから、事実上の夫婦だったのだろう。」「相手を伴侶だと認め合っていた関係、つまり合意された準婚関係を解消するからには、双方が納得の行く条件がクリアされなければならなかった。」といった岡森さんのコメントは柔軟性に富んでいると思います。女が大学教授だから、高収入だから、通常の男女関係とは逆の生活実態になっているからという理由で、男の側が準婚関係を一方的に解消していいということにはならないはずです。
法律家の方々の意見やそれらに対する私のコメントもご覧ください。