子供はもうけたが、互いに束縛しないよう法律上の結婚はせず、住まいも生計も別にして好きなときに行き来する――。こんな関係にあった男女の片方が一方的に別れを告げた場合、もう一方は慰謝料を請求できるかが争われた訴訟の上告審判決が18日あった。最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は「婚姻やこれに準じるもの(内縁)と同じように法的に保護する必要は認められない」と指摘。一方の意思で関係が解消されたとしても当事者に法的義務は発生しない、との初判断を示した。
(朝日新聞記事より) |
婚姻の社会的実体はあるが婚姻届の出されていない男女の関係を「内縁」という。
(法律用語としての「内縁」は、世間でいう「内縁」とは意味が異なり、婚姻の社会的実体が必要である。)
内縁について、届出がない以上法的保護は与えないと割り切ることは困難で、婚姻についての社会規範と法規範とのギャップを何らかの形で埋める必要があった。
とりわけ、内縁関係が不当に破棄された場合の相手方の保護が問題となってきた。
判例は、まず内縁を「婚姻予約」と捉え、契約法の法理から保護を与えようとした。(大連判大4.1.26)
そして、最判昭33.4.11において、内縁を婚姻に準ずる関係と捉える準婚理論を採用し、不法行為責任(慰謝料の損害賠償責任)の発生をも肯定した。
準婚理論によれば、内縁破棄に不法行為責任を認める根拠は、内縁に婚姻に準ずる関係(準婚関係)が存在するところにある。
したがって、準婚関係が存在しなければ、不法行為責任を認める根拠を欠くことになる。
しかしながら、、記事の事件の判決文を読むと、原審では、、
上告人と被上告人との関係は,婚姻届を提出せず,法律婚として法の保護を受けることを拒否し,互いの同居義務,扶助義務も否定するという,通常の婚姻ないし内縁関係の実質を欠くものであったことが認められる。 |
と、準婚関係を否定しながら、
上告人と被上告人とは,両者が知り合った昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたり,上記のような関係を継続してきたものであり,その間,2人の子供をもうけ,時に互いの仕事について協力し,一緒に旅行をすることもあること等,互いに生活上の「特別の他人」としての立場を保持してきたこともまた認められる。 そうすると,・・(中略)・・上告人が,被上告人との格別の話合いもなく,平成13年5月2日,突然,上記の関係を一方的に破棄し,それを破たんさせるに至ったことについては,被上告人における関係継続についての期待を一方的に裏切るものであって,相当とは認め難い。 したがって,上告人は,被上告人に対し,不法行為責任を免れ難い。 |
と、不法行為責任を肯定している。
当該事件におけるパートナー関係継続についての期待を、法的保護に値する利益だとしているのだろう。
これに対して、最高裁は、、
上告人と被上告人との間の上記関係については,婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がないことはもとより |
と、準婚関係と同様の保護を否定し、
上記関係の存続に関し,上告人が被上告人に対して何らかの法的な義務を負うものと解することはできず,被上告人が上記関係の存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえない。 |
と、パートナー関係存続が法的保護に値する利益であることも否定している。
婚姻に対する考え方は、人それぞれである。
共同生活を婚姻の本質的内容とは考えず、共同生活を伴わなくても、相手を配偶者に準じた生涯のパートナーと考える人もいる。
このような関係は、社会の慣習とは異なるとしても、公序良俗に反しない限り、保護すべきではないだろうか?
共同生活を伴わないことは、子供の養育に影響を与えるかもしれないが、それは二次的なものだろう。
参考:内田貴「民法4親族・相続」
Posted by S-I at 2004年11月20日 01:49
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ご訪問ありがとうございました。 トラバしていただいて光栄です。
私は、法の条文を細かく扱う仕事をしています(とはいえ、扱うのはおもに一部の法令だけですが)。 そんな中、すべての市民にとって法を読み説く知識は必要だろうと痛感しています。 法は、自分が不利な状態に陥ってはじめて意識するという場合が多いわけですが、それでは遅いと思うのです。
などと言いながら、私も日常生活ではよく失敗しているのですが.......(^_^;;)
>獵人さん
いらっしゃいませ。
世の中には、じっとしていれば正義が勝つと思っている人も少なくないと思います。
また、アパート賃貸借契約で1ヶ月家賃滞納で解除とか、無断駐車罰金1万円とか、守らなければいけないと思っている人もいると思います。
私もそうでした。
法の基本的な考え方を知ることにより、疑問を持つことができるようになると思います。
TBありがとうございました!
とても詳しく書かれていて勉強になりました。
それから、ステキなブログですね。
また拝見させていただきます。
それでは。
はじめまして。@水本です。
たまにですが、拝見させて頂いています。
この判決については、最高裁判所のHPで判旨を
ご覧になっているとは思います。
判旨を見ると、この女性が自分の子供に対する対応には、
嫌悪さえ感じるものがあります。
そして、この女性は、担当教科と生き方からすると、
「結婚を悪」と考える昔ながらのフェミニストのようです。
新聞記事ではぼかしていますが、直接、判旨を読むと、
関係解消について、保護に値する利益はないと感じました。
ラフに言うと。この女性はフェミニストらしくない対応かと!
ちなみに、家族法を学ぶには、家族法学者の本をオススメします。
家族法は理屈じゃないところが多いです。
遠藤名誉教授が「家族法はオトナの学問」と言ってました。
>水本さん
いらっしゃいませ。
申し訳ございませんが、コメントの一部を編集させていただきました。
この女性の担当教科や生き方について、詳しいことは知らなかったのですが、、、
(判決文を読んだ範囲では、)確かに子供に対する対応には問題があると思います。
だから、最高裁のように、「この女性に保護すべき利益はない」と考える人も少なくないと思います。
私は、「結婚は悪」とする考え方や生き方も尊重されるべきだと思います。
この女性も、多少わがままなところがあったにせよ、考え方、生き方、人格は尊重されるべきだと重います。
その上で、子供の保護は別に考えるべきだと思います。
財産法では内田先生の本が受験生の間では最もポピュラーだったので読んでいたのですが、
家族法は、家族法学者の本を読むのもいいかもしれませんね。
機会があれば遠藤先生の本を読んでみます。
遅ればせながら、ちづるです♪
今回のケース、「お互いに束縛されたくない」との意向で
あえて籍を入れなかったのだから、一般の内縁の家庭と比べても
やはり保護はされにくいのではないでしょうか・・・。
ちなみに、話がそれますが、別れるときに慰謝料だの何だのと
ゴチャゴチャ言ってる間は、まだ未練がありますよね。。。
>ちづるさん
お久しぶりです♪
判決文には、
「上告人と被上告人との間において,上記の関係に関し,その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。」
とあります。
南山大学の町村先生も、
「新しい男女関係の趣旨を尊重したものといえるかもしれない。」
と、ブログに書かれています。
当事者の合理的意思解釈として、「離脱を自由に認める」というのがあったと考えることもできると思います。
そうだすれば、契約法でも保護されないことになると思います。
私は、高裁の判決を支持しますが。。
TBありがとうございます。
私は今回の判決を支持します。
同情の余地はあるかもしれませんが、
それほど保護する必要はなかったと。
まあ、あまり家族法はやってこなかったんで
詰めた意見は言えませんが(^^;
>S-Iさん
レスありがとうございます。
つまらないことですが、HNは「@水本」のつもりです。
前回、かなりラフな書き込みでした。編集OKです。すみませんでした。
また、前回の「ちなみに~」以下は忘れて下さい。
以下、長い書き込みになってごめんなさい。
子供の話を出したのは、毎日新聞のHPで原告女性の話があったからです。その話の中に、「子供までいるのに法的保護を与えないと判断しており、憤りを感じる」とのコメントがありました。判旨を読む限り、この女性の子供への監護は皆無ですから、「子供がいるから」との主張では法的保護は認められないと思ったわけです。また、フェミニストの話を出したのは、「昔ながらのフェミニスト」になればなるほど、パートナーとの関係が希薄になる「主張」だからです。
さて。
最高裁のポイントは、「関係存続の合意があるなら、法的保護を与えてよい」ということだと思います。高裁では「保護に値する関係存続の期待がある」かどうかですが、実質は同じでしょう。
そうすると、子供の存在は関係存続の重要な要素となりますが(有責配偶者の離婚請求の判例をご覧下さい。この事案は一種の離婚といえますので、参照しました)、この事案では子供はいないに等しいわけです(特に女性にとって)。また、この事案では16年間関係があったわけですが、パートナーとの関係が希薄なので(いわば、長年の親友程度な感じでしょうか)、将来にわたる関係存続の要求は認めにくいと思いました。長年の親友に対して「ずっと友人でいてほしい、解消するなら損害賠償だ」ってことを認めるのは、変ですよね。
こんな読み方から、「関係存続の合意・保護に値する関係存続の期待はない」とみて、最高裁の結論の方が妥当だと思ったわけです。(少しは法律的な議論になっていると思いますが)
私は、この女性がわがままだとは思いませんし、どんな生き方でも自由だと思います。ただし、パートナーという他人に、それも老後が近づいて不安に感じている(はずの)者に、今後もずっと「この女性の生き方」に付き合わさせる(=損害賠償を認める)のは、どうかと思うのですけどね。このパートナーは別の女性と結婚したのですが、不安定な関係よりも結婚という安定を求めたパートナーの方を尊重してあげたいと思うのです。(←これは、この事案について私が感じた背景・思想みたいなものですから、論理ではないです。)
>みやっちさん
いらっしゃいませ。
今回の判決、支持する人の方が多いかもしれませんね。
私も去年まで家族法はあまり勉強してませんでした。
よろしくお願いします。
>@水本さん
名前を間違えてすいません。
有責配偶者からの離婚請求については、奇しくもこの判決と同じ日に最高裁で判決がありましたね。
(時間があればそれについてもエントリーを書こうと思ってます)
昭和62年判決では、「未成熟の子が存在しない場合には」とあり、未成熟の子供の存在を考慮しています。
他の判例も読んでみます。
確かに、子供の利益ということから考えても、関係断絶の前から監護をしていないのであれば、関係断絶により失う利益はないと考えることもできると思います。
二人の関係を判断するのに、子供の存在は重要な要素となるが、本事件においては、関係存続に対してプラスに働かないというわけですね。
勉強になりました。
裁判所も、結局は、二人のうちどちらを勝たせるのが社会通念から考えて妥当か、比較衡量して決めているのかもしれません。
そして、最高裁は、女性の子供に対する態度等を考慮して、男性の利益の方を優先させたのかもしれません。
原告の方がオフィシャルサイトを開いているようです。
http://flab.s101.xrea.com/
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