深見友紀子 最高裁・パートナー婚解消訴訟 オフィシャルサイト

本件に対する一般の人々の反応
Part 1

オブジェクション205 〜論説集〜 岡森 利幸

[準婚関係の認定]

 以下は、2004年11月18日の毎日新聞夕刊の記事より要点を抜粋。

 ――「パートナー」解消の男性勝訴。

 同居せずに互いに独立して生計を立て、「パートナー関係」を約16年にわたり結んできた男女で、男性が別の女性と結婚するためにその関係の解消を求めた場合、その男性が女性に対して損害賠償義務が生じるのかどうかが争われた訴訟で、最高裁判所(横尾和子裁判長)が賠償義務なしと判決を下した。

 この男女は結婚直前の86年3月に婚約を解消し、知人に「スープの冷めないくらいの近距離に住み、特別の他人として親交を深める」とする書面を郵送した。以来、住所を別々にして共有財産を持たない関係を続け、2回の出産の際だけ子供のために結婚してはすぐに離婚して、育児は男性側が担当した。しかし男性が01年、別の女性と結婚するため関係を解消したため、女性が500万円の慰謝料を求めていた。

 最高裁判所は判決で、「女性は2人の子供の養育に一切かかわりを持っておらず、両者は意図的に婚姻を回避してきた。男性が一方的に関係を解消したことで女性が不満を抱くことは理解できるが、(法的に)関係存続の保障を認める余地はない」と説明した。

 これまで、東京地裁は02年12月、「永続的な関係とは言えない」と女性の請求を破棄したが、東京高裁は「関係継続への期待を裏切った」と男性に100万円の支払いを命じていた。

 婚姻届を出していないが、婚姻の実態がある「内縁関係」を巡っては、大審院が1915年1月、「正当な理由なく破棄すれば賠償請求の対象となる」とする判断を示し、戦後も最高裁が「結婚に準じた関係(準婚関係)」と位置づけて同様の判断を示してきた。しかし、今回のケースは、従来の内縁関係のどの要素も満たしていない。

 原告女性の話「旧来型の内縁の夫婦だけでなく、お互いの職業上の理由から別居し、婚姻届をださない事実婚を選ぶ夫婦は増えている。今回は子供までいるのに法的保護を与えないと判断しており、憤りを感じる」――

 この会社員男性(現在49歳)と大学教授の女性(47)のこじれた仲を決着させる裁定は、裁判所によって判断が分かれており、非常に難しいケースだったようだ。最高裁判所は、「相互間に『関係を解消してはならない』という合意がなく、関係存続を求める法的権利はない」と判断した。しかし、私には二人の間に関係を継続するという暗黙の了承(互いの信頼)はあったように見える。つまり契約に準ずる合意があって、16年も関係を継続し、子供をもうけたのだ。

 しかし、この女性はあまり同情されなかった。その理由について考察してみたいと思う。

 この二人はわざわざ婚約を解消したり、子供が生まれたのを機に結婚したのに、なぜすぐに離婚届を出したりしたのか、理解に苦しむところがある。それが多くの人に理解されなかったと思われる。

 法的な結婚に何か問題や不満があったのだろうか。男性側の姓に名前を変えるのがいやだったのだろうか。それとも大学教授の彼女には、独身でいることの何かメリットがあったのだろうか。結婚手続することで制約を受ける何かがあったようだ。おそらく、結婚に伴う義務(家事の分担など)を負わずに、自由でいたいというものだろう。家事に煩わされずに自分の仕事に専念したかったのだろう。相手に邪魔されないし、相手を束縛しない関係を求めた。あるいは世間の目を気にして、他人から「家庭を顧みない悪妻愚母」と言われたくなかったので、結婚という形式を避けたのかもしれない。

 彼女は、たぶん、学問的に有能で自分の研究に忙しく、自立できる経済力をもっていたのだろう。自分の時間を大切にし、授業や研究のために日本全国を飛び回り、外国へも行き来している人だろう。家庭にこもるような女性ではなさそうだ。家族あるいは世帯という枠にはまらない、自由な大人同士の関係であったようだ。

 ある程度周期的に会って親しい関係を保つ。相手をいわゆるセックスパートナーとして関係を続けていたのかもしれない。子供を作る意志をもち、二人も出産しているから、事実上の夫婦だったのだろう。その男性が育児を行うことも結構なことだ。彼女が育児を放棄したとしても、私は彼女をなじるつもりはない。彼女には、彼女しかできないもっと重要な仕事があったのだろう。

 ただし、自分が自由でありたいということは、相手にも自由を与えなければならないだろう。一対一のステディーな関係であることを表明するならば、知人に書面を郵送するよりも、結婚届を出すという手続きの方が有効だったはずだ。互いに相手を伴侶として確認する意味でも、結婚の形にして社会的にも承認を得るべきだった。それとも、別居しているが結婚しているという形に、何か不都合があったのだろうか。

 しかし男性はそんなパートナーの生活に不満をもち始めた、と想像される。住居が別であれば、すれ違いも多かったと思われる。他の、もっとましな女性が現れれば、乗り換えるのは妥当な選択であろう。ただし、相手を伴侶だと認め合っていた関係、つまり合意された準婚関係を解消するからには、双方が納得の行く条件がクリアされなければならなかった。

 一般に、婚姻関係を解消するなら、手切れ金の意味で、解消したい側の男性が女性に慰謝料を渡すところである。その男性にとって500万円は大金だったし、経済的に互いに独立していたから、いまさら金を渡す気にはなれなかったようだ。女性の方が社会的に地位も高く、収入も多かったようだから、今後も男性が子供を養育するためには、むしろ女性から養育費をもらいたかった気持もあったのだろう。つまり、通常の男女関係とは逆の生活実態になっていたから、最高裁は、関係を解消したのは男性だったが、慰謝料をもらうべきは男性の方だと判断したのかもしれない。あるいは、婚姻関係はともかくとして日常的な生活実態が希薄だったから、相手の不実をなじる権利もないということだろう。

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深見友紀子(ongakukyouiku.com)

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