大日向雅美さんは自著「母性愛神話の罠」のなかでおもしろい例を挙げています。
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【ある育児雑誌に読者から投稿された相談】
「家事・育児の負担が私にかかるばかり。“離婚”も頭をよぎるこの頃です」
私は32歳の公務員で、2歳の女児がいます。パートナーは同い年で出版社の編集者をしています。私たちは同じ大学の同級生どうし。結婚に際しては、お互いに仕事も家庭も両立できるように、助け合っていくことを約束して結婚生活をスタートしました。私にとってもパートナーにとっても、この約束はごく自然なことでしたし、家事分担も何の問題もなく順調に日々を送っていました。
ところが子どもが生まれてから、この歯車が狂い始めてしまいました。というのも、育児や家事の大半が私の肩にかかってしまっています。もともと定時に帰宅しやすい私の仕事と違って、パートナーの仕事は不規則でしたが、最近では年齢的にも仕事に油が乗ってきたようで、連日帰宅が遅くなります。パートナーが育児や家事を分担できるのは、せいぜい休みの日ぐらい。子どもも私にばかりなついてしまっています。
私も家事も育児もきらいではありません。しかし、これでは仕事も家庭も互いに分かち合っていこうといった約束はいったいどうなってしまったのでしょうか。これをパートナーに言っても、“今は自分のほうが仕事が忙しいのだから、時間の都合がつくほうが助けてくれてもいいのではないか? 二人が同じことをするのが必ずしも分かち合うことではない。できる人ができることをするのも、分かち合いではないのか?”と言って、いっこうに取り合う気配がありません。これでは何のために結婚したのかと疑問ですし、最近では「離婚」の文字が頭をかすめるようになっています。
こうした私たちの様子をうすうす察知している私の母からも、別れることをそれとなくすすめられています。
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大日向さんはこれまでに500~600人に、あなたが回答者ならこの人生相談にどのように答えるかを聞いたらしいです。
どう答えるかは回答者の結婚観や家庭観、男女感の反映なので、本来ならば正解も不正解もないはずなのですが、2人を除き、すべて「不正解」だったらしい。
なぜなら、「夫婦のうち、どちらが公務員でどちらが編集者なのですか」と尋ねたのはその2人だけで、後の600人近くは、この相談者、つまり公務員を女性=妻と決めつけて回答したからです。実際、相談者は男性でした。「正解」の2人も男性だったそうです。
パートナーのSさんと私が親しくなって4年が経ちました。私は料理学校に2年間も通ったことがあり、実際に料理をすればかなりの腕前ですが、この4年間料理を作ったことはほとんどありません。2人でいるときは、よほどSさんの仕事が忙しいとき以外は、彼がご飯を作ります。朝ごはんはSさんが作り、できた頃私は起きます。私が1人でいるときは、外食か中食でしのいでいます。
・・・・何ていう女だってことになるでしょうね、たぶん。
しかし!!!!
パートナーのY子と親しくなって4年が経ちました。僕は料理学校に2年間も通ったことがあるのですが、この4年間(仕事が忙しく)一度も料理を作ったことはありません。2人でいるときは、よほどY子の仕事が忙しいとき以外は、彼女がご飯を作ります。朝ごはんはY子がつくり、できた頃僕は起きます。僕が1人でいるときは、外食か中食でしのいでいます。
・・・これだったら、すんなりと受け入れられるはずですよね。
一般の人々だけでなく、法律家たちも、大なり小なり、本人の気づかない間に男女の役割分担の固定観念にとらわれています。固定観念を取り払えば、「最高裁・パートナー婚解消訴訟」からもっと多くのことが読み解けるのに・・・・。