今週発売の【週刊朝日】に「東大脳を育てるピアノと専業主婦」という記事が載っていました。
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【週刊朝日】本誌調査でなにより驚くべき結果だったのが、「小学時代にピアノを習っていた合格者は52%」と「合格者家庭の専業主婦率63%」
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「小学時代にピアノを習っていた合格者は52%」という数字に、20年間ピアノを教えている私は意外と少ないなと感じました。
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【週刊朝日】ベネッセ教育研究開発センターの「幼児の生活アンケート」の05年の調査によると、1歳6ヶ月から小学校就学前までに、ピアノやバイオリンなどの楽器の個人レッスンを受けている幼児は6.5%・・」
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6.5%という数字は、東大生のピアノ学習経験率52%が、いかに世間とズレて高いかを示すために用意されたみたいですが、以下のアンケート結果の〔図1-2-1〕をみると、音楽教室の5.5%、バレエ・リトミックの6.0%を無視していることがわかります。また、1歳6ヶ月からというのは0歳6ヶ月からの誤りです。さらに、6.5%は00年で05年は6.1%。00年と05年を取り違えているようです。東大生のピアノ学習経験率の高さを際立たせるには、6.1%のほうがより好都合だったのに。
ベネッセ教育研究開発センターの「幼児の生活アンケート」の05年の調
査(PDF形式)
ベネッセの05年の調査対象は、0歳児~326人、1歳児~660人、2歳児~740人、3歳児~312人、4歳~312人、5歳児~326人、6歳児~276人と、通常楽器を習うことは考えにくい1歳児、2歳児のボリュームが大きくなっています。こうした低年齢の幼児を含めると、楽器を習っている幼児の割合は当然低くなります。現に、〔図1-2-2〕をみると、6歳では18.9%が楽器を習っているし、「小学時代にピアノを習っていた(東大)合格者は52%」ということと比較するのなら、6歳児の時点で習っていた子どもに、小学校に上がってから習い始めた子どもをプラスして比べるべきであると思います。小学校に上がったのを機にピアノをやめるという子どもはほとんどいないでしょうから。
私はピアノのレスナーであり、大学の児童学科の教員であり、そしてたまたま最近、このベネッセの調査(昨年10月末が締切だったため、使用したのは00年のデータでしたが)に基づいて論文を書いたのでこの【週刊朝日】の記事のいい加減さに気づきましたが、週刊誌の記事って、全部こんなレベルなんでしょうか。
楽器はピアノだけとは限らないのに、この記事では途中から楽器=ピアノとなっている・・・。
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【週刊朝日】「幼稚園から小学校卒業まで続けたピアノは、結局弾けるようになったのは、(ゲームの)『ファイナルファンタジー』だけということだが・・」
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今の18歳が小学生の頃、男の子のほとんどが『ファイナルファンタジー』を弾いていました。誰でも弾く『ファイナルファンタジー』を東大と結び付けようとしても無理があります。アレンジにもよりますが、日光猿軍団のサルのようにトレーニングさせれば数ヶ月で小学生なら誰でも弾けるようになります。
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【週刊朝日】「幼少期にピアノ教育を受けることで、“お母さんにほめられる快感”を知る子どもになる、ということはいえるでしょう。」(最相葉月)
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“お母さんにけなされる不快感”だってあると思います。それになぜ「お母さん」なんでしょう。
私のピアノ教室の生徒のなかに、レッスンに関する私とのやり取りはほとんどお父さんという家庭があります。現在中2の男の子は、ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」が弾けますよ。
この記事のなかでは、唯一「東京大学ピアノの会」の会長のコメントは、楽器演奏の効用の1つを言い当てていました。でも、楽器演奏だけにそうした効用があるわけではない・・・。
子ども・脳・音楽・楽器・・・・もっともっと大きなテーマです。